坂本さんが家で新聞を読んでいると、
しのぶ君が帰ってきました。
「お父さんが仕事ばせんと、みんなが肉ばたべれんとやね」
何で急に、そんなことを言い出すのだろう、と
坂本さんが不思議に思って聞き返すと、
しのぶ君は学校の帰り際、
担任の先生に呼び止められて、
こう言われたというのです。
「坂本、何でお父さんの仕事ば、普通の肉屋て言うたとや?」
「ばってん、カッコわるかもん。1回、見たことがあるばってん、
血のいっぱいついてからカッコわるかもん」
「坂本、おまえの父さんが仕事ばせんと、
先生も、坂本も、校長先生も、会社の社長も、肉は食べれんとぞ。
すごか仕事ぞ」
しのぶ君はそこまで一気にしゃべり、
最後に
「お父さんの仕事はすごかとやね」
と言いました。
その言葉を聞いて、坂本さんは、もう少し、
仕事を続けようかなと思いました。
「いのちをいただく」の本より